札幌市の中心部に東西約2キロ、幅約100メートルにわたって伸びる緑と水のベルト、大通公園は、世界的にも有名な「さっぽろ雪まつり」をはじめ、「ライラック祭り」「よさこいソーラン祭り」など、四季を通じて市民の憩いの場としてにぎわっています。また、故イサム・ノグチ氏による彫刻「ブラック・スライド・マントラ」なども設置されており、子供たちの遊び場として親しまれています。そして、この大通公園の南側に、昨年11月末にオープンしたテナントビルが「札幌小学館ビル」です。
この大通公園に面するビルの設計にあたっては、「公園自体のもつポテンシャルを十分に取りこんで市民に愛されるテナントビルとして、永くその寿命が保たれることを目標としました。ところが計画地の間口は16メートルから18メートルと狭く、1階のテナントは大通公園に大きく顔を見せる必要もあり、最小限しかエントランスホールを取れないことになります。
そこでビルの下層部を大きくセットバックさせて公園と一体となるオープンスペースを生み出し、このエントランスプラザに、ガラスによるピラミッド型の入口(風除室)を配し、相反する2つの要求をクリアさせました。この部分がビルの大きな特徴となっています」(清水建設北海道支店意匠設計主任・瀧根正温氏談)。
このピラミッド型のエントランスの中には、北海道美唄市出身の国際的彫刻家で、イサム・ノグチ氏の直弟子でもある安田侃(やすだ・かん)氏の手による真白い大理石の卵が置かれています。ちなみにピラミッドは永遠なる死を、そして卵は生命の象徴として生と死の融合を意味するとともに、そこから発散されるピラミッド・パワーに期待しています。また、オープンスペースにあるモニュメンタルなピラミッド・エントランスによって垂直性が強調されることで、シャープかつ繊細な建物のイメージが形作られています。
このような、ビル前面のフラットなガラスファザードは、北国では珍しい透明な全面ガラスカーテンウォールの構成で、外部からは大通公園の緑と空を映し出すスクリーン効果をはかるとともに、内側からは公園の緑が一望できるという、建物と公園の視覚と雰囲気の調和をも実現しています。また、大通公園という活力のある「場」の力を取りこむことで、ビルとしても長寿命かつサスティナブル(持続性のある)な存在となることも、その意図とされました。
また、ピラミッド・エントランスの内と外では、透明なガラスとガラスが組み合わさり、そこに反射した公園の緑や空などの風景が何重にも重なっていくという、視覚的な面白さも味わうことができます。このようにビル自体に強くモニュメント性を持たせることで、札幌市民に親しまれ、永く愛される建物となることを狙いとしています。
同ビルの地下には日精の平面往復方式CSパーキング復列タイプが設置されました。2段3列の構成で合計台の収容が可能ですが、このうち半数の1台はハイルーフ車にも対応しています。さらに、外国車をはじめとする大型車が入庫することもできます。
地域的な特色として北海道はハイルーフの比率が高いこともあり、ハイルーフ車への対応は必須条件でしたが、大型車への対応は北海道でも珍しく、将来を見据えた選択です。
計画の初期段階ではタワーパーキングの採用も検討されましたが、間口が狭く開口部を取れないことから地下式が採用されました。さらにCSパーキングの採用で、テナントビルにふさわしい待ち時間の少ない入出庫が実現されています。
CSパーキング複列タイプ
ピラミッド型のエントランス
乗込口の開口時
平均取出時間1分30秒以内とスピーディな入出庫口