上図は、棚式凍結乾燥機の仕組みを示したものです。医薬品の生産にいちばん良く使われている型です。以下、各機構を簡単に説明します。
薬品を仕込む皿です。バイアル、アンプルを入れたり、直接薬品を仕込んだり(バルク乾燥)します。
乾燥の堆力となる、昇華潜熱を供給する機構。良い精度で温度制御されます。棚は-50℃位まで冷却でき、ここで予め薬品を良く凍らせてから乾燥庫を真空にする。乾燥中は、昇華潜熱を供給するため、-20℃~+50℃位の範囲で制御される。
洗濯物の乾燥の「風」に相当する機構ですが、若干の説明を要します。
乾燥庫に最初にあった空気を汲み出す。乾燥中は、氷の中に閉じこめらた微量の空気、装置の極微量の洩れのため入ってくる空気などを汲み出し真空維持に貢献する。
水蒸気を汲み出す、排気装置の主要な仕事を果たしています。
0.1Torr(沸点-40℃)の真空中(-40℃以上の水は存在できない環境)では、僅か1gの氷が水蒸気になると、10m3もの体積の気体となります。(20L石油缶500杯分)これを機械ポンプで汲み出したのでは、莫大な設備、動力を要します。
そこで、「冷やすと凝縮する」「冷たい所へ凝縮する」という水蒸気特性を利用して、水蒸気を除去します。冬、満員電車の窓にびっしり結露する。
冷蔵庫の冷却板に霜が積もってくるのがそれです。トラップ(Trap)には「わな(罠)」という意味があります。水蒸気を捕まえる「冷たい罠」です。
ここには、-50℃~-60℃の極低温面が設けられています。薬品は、-30℃、トラップは-50℃とすると、0.3Torr対0.03Torr10:1の気圧差が作られます。薬品から発生した水蒸気は、気圧の低いトラップめがけて殺到し、氷となってくっつきます。実際、乾燥中は台風以上に急速な(伴し、極めて稀薄な)水蒸気流が発生し、その力で乾燥庫の真空が維持されているのです。空気抵抗がないことが、効率を更に高めます。空気がないので、トラップに推積する氷は、冷蔵庫の霜と違った固い氷です。こうして、水蒸気は見事「罠」に捕まりますが、昇華する時取り込んだ潜熱を手放しますので、乾燥中、強力な冷凍機で熱を供給する事によってトラップの低温を維持します。棚が「熱」を投げる「投手」、トラップ「捕手」ということになります。
装置の司令部、頭脳凍結乾燥機は、条件を自動的に確認しながら、装置を動かし、乾燥を遂行する制御機構、温度、真空度、凍結状態等を自動測定・記録・制御する計装など、高度の設備が設けられています。
乾燥が終わったら、バイアルを真空で、或いは窒素などの不活性ガスを入れて施栓する封栓機構。
装置内を滅菌・洗浄する機構。
コールドトラップを無菌的に融氷する機構。
などがあります。