これから、バイアルや、アンプルに分注された医薬品を念頭に置きながら、凍結乾燥のプロセスについて、説明してみます。
最初に、薬液をよく凍らせます。-40℃程度まで冷却します。(便宜上、0℃で凍る純粋の水を前提に説明してきましたが、医薬品は、大抵、多成分溶液で凍結温度はずっと低く、凍り方も複雑です。例えば、食塩水は-21.5℃で凍結します。予備凍結は、凍結乾燥の成否を左右する重要な前処理工程で、凍結乾燥技術の核心の一つです。)
凍結した薬品を、真空中で乾燥するプロセスです。沸騰、沸点の話から、説明して来た事で湯がぐらぐら沸騰する様な速度で、昇華が進むことを想像されたかも知れませんが、実は凍結乾燥では相当の時間を費やし、ゆっくりした速度で昇華が進んで行きます。それは、凍結乾燥に固有の熱供給の困難さがあるためです。
最初は全体が氷の塊で、昇華はその表面から始まる。
乾燥が進むにつれ、薬品は乾燥した部分と未乾燥の凍結部とに分かれ、その境目で昇華が行われる。昇華面は次第に奥に後退し、凍結部を蔽う既乾燥部の厚みが増していく。これは、凍結乾燥プロセスに固有の現象で、これが、昇華潜熱の供給を妨げるのです。
既乾燥の通気抵抗……昇華面の真空度を低下させる。
熱供給により、昇華がおこり、昇華面の氷は水蒸気に変えられます。
但し、水蒸気は、既乾燥部を通り抜けなければ、外へ出られません。そしてこの通路は、薬品から水蒸気が消滅する事によって生じた微細なスポンジ状の構造になっていて、水蒸気の通行の邪魔をします。どんどん熱を供給した結果、昇華面に大量の水蒸気が発生した状態は、丁度ラッシュアワーの駅のプラットホームの様なもので、昇華面に水蒸気があふれてしまいます。その結果は昇華面の真空度低下→凍結部の融解→凍結乾燥の失敗となります。
真空環境では氷が溶けないと云いましたが、乾燥室の真空がいくら良くても、昇華面真空が悪ければ、凍結状態は忽ち崩れてしまいます。凍結乾燥が熱を供給しにくく、従って乾燥時間が長引く最大の理由はここにあります。
氷の昇華後の残る濃縮体は、ある温度(共晶固化の場合は、共晶温度)を超えると軟化し、空洞脱出路を閉鎖し凍結乾燥を失敗に導きます。この限界温度を崩壊温度(Collapse Temp.)と云います。
一次乾燥中に必要な真空度の選択と昇華潜熱の供給は、既乾燥部の通気抵抗と乾燥対象物部の崩壊温度を考慮し慎重に行わなくてはなりません。
氷として水を昇華させたあと、乾燥の仕上げとして、結合水を除去する工程が必要です。これは、薬品成分にくっついて残っている分子状態の水を除去する工程で、この段階では、薬品を許容温度一杯まで(といっても30℃前後)加熱し、真空を良くして(出てくる水蒸気が減るので自然に真空は良くなる)薬品の乾燥度を高めます。他の乾燥法と比べて乾燥度(仕上がり含水率)を非常によく出来るのも凍結乾燥の特質です。
以上が凍結乾燥の基本的なプロセスです。